東本願寺の飛び地境内である渉成園は、四季を通して花や木々が美しい庭園。周囲に枳殻(カラタチ)が植えられていたことから、枳穀邸とも呼ばれています。春の渉成園を訪ねてみましょう。
お東さんの広大な庭園
渉成園は、東本願寺の飛び地境内で、広さ約1万600坪の広大な庭園です。寛永18年(1641)に徳川家光から土地の寄進を受け、石川丈山により作庭されたと伝わります。宣如上人が承応2年(1653)にこの土地を隠居地として、陶淵明(とうえんめい)の『帰去来辞』の一節から取って渉成園と名付けました。京都駅から徒歩10分という立地ながら、庭園内はとても静か。ゆったりと落ち着いた時間が過ごせる庭園として人気です。
渉成園十三景
印月池(いんげつち)を中心にした広大な庭園には、茶室や書院群が建ち、四季折々に美しい植物が植えられています。文政10年(1827)に渉成園を訪れた頼山陽(らいさんよう)は、『渉成園記』で園内の建築や景物を十三景として紹介。その風雅なさまを讃えました。渉成園内の諸殿は安政5年(1858)年と元冶元年(1864)の2度にわたって焼失し、現在の建物は明治初期に復元されたものですが、十三景の美しさは今も変わらずに人々を魅了しています。
源融(みなもとのとおる)の六条河原院を偲ぶ
渉成園がある場所は、平安前期の左大臣・源融の邸宅である六条河原院の旧跡だという伝承があったことから、庭園のあちこちに、伝承に基づく景物が配置されています。近年は、渉成園は河原院の跡地ではないと考えられていますが、河原院の趣向を取り入れた庭園を眺めれば、源融が陸奥の塩釜の浦を模して造らせたという風雅な邸宅をイメージすることができそうです。
見頃を迎えた双梅檐(そうばいえん)
渉成園十三景の十番目に数えられる双梅檐は、梅が20本ほど植えられた梅林。毎年2月から3月にかけて、紅梅と白梅が花を咲かせ、ふくよかな甘い香りを漂わせます。庭園を散策していると、ふいに漂ってくる馥郁(ふくいく)たる梅の香りに、春の訪れを感じるのも風流なもの。3月末頃からは傍花閣を囲むように桜が咲き、庭園内はまさに春爛漫の風情となります。渉成園の春を楽しみましょう。