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『京都の平熱』EC

哲学者と京都を散策、『京都の平熱』

『京都の平熱』

鷲田清一著

講談社刊(講談社学術文庫)

定価960円(税別)

かつては日本の「みやこ」であり、文化の最先端として栄えた街、京都。時代が移り変わっても、何気ない路地やお店の中に「新しもん好き」の心意気はしっかり残っています。歴史、モダン、学問、遊び。今回ご紹介するエッセイ本、『京都の平熱』には、京都のいろいろな顔が登場します。これまで知らなかった「奥のほう」を、哲学者・鷲田清一といっしょにのぞいてみましょう。

『京都の平熱』表紙
白黒写真に、銀色のタイトル。どこかノスタルジックな表紙が、好奇心をくすぐる。
京都散歩を疑似体験。市バス206号の旅

大阪大学の総長を務めたことでも有名な著者は、京都生まれの京都育ち。『京都の平熱』は、206号系統のバスに乗って著者が市内をひとまわりする形で、いろいろな場所とそれにまつわるエピソードを紹介した本です。「ずいぶん久しぶりの206番だ。」から始まる、一冊ぶんの旅。カメラマン・鈴木理策氏のセンスある写真も相まって、独特の雰囲気を持ったエッセイになっています。

『京都の平熱』紙面
エッセイの随所には、カメラマン・鈴木氏の写真が散りばめられている。モノクロ印刷された、何気ない日常の一コマ。この風景にどんなストーリーが隠されているのか、考えながら眺めるのも楽しい。

206号1

206号2
エッセイの主役とも呼べる、市バス206号系統。京都駅を出発してから、京都市内をぐるりと一周する。
これも「京都」、ファンタジックな世界の数々

登場する場所は、いずれもまさに「ツウ」好み。普通に歩いているだけでは発見できないような隠れたお店や不思議なスポット、「奇人」たちのストーリーが次々と現れます。公園で食べる「べた焼き」、ピンク色のつなぎでバイクをふかすお寺の住職、大文字の送り火を「犬」文字にしてしまった学生たち……。雅でしっとりしたイメージとは、ずいぶんかけ離れたエピソードたち。ページをめくるたび、京都という町の懐の深さに驚かされることでしょう。

円山公園
エッセイ中にも出てきた円山公園。桜の時期には多くの人たちが、誰かれともなく踊り狂っていたとか。夢かうつつか、京都にいると、現実感のない光景がところどころで見られる。

大学

鴨川1

鴨川2
「京都は、学生に甘い町」とは著者の言。「学び」と「遊び」が絶妙に融合した町は、さまざまな偉人を生み出してきた。
厚みを増した京都を、いざ自分の足でも散策

「両義性の満ちあふれている街、そう、なかなか一筋縄ではいかない街、その混沌が、スタイルとして、大なり小なり市民の血と肉になっている街、それが京都だ。」著者は最後に、こう締めくくります。この本を読み終わったあとには、きっと京都という街の見え方が変わっていることでしょう。街歩きの「目」を養って、「自分だけの京都」も発見できるようになりそうです。

北野白梅町

作中に登場する和菓子店、「老松」のある上七軒は、京都の五花街のひとつ。そしてすぐ隣には、学問の神様・菅原道真公でおなじみの北野天満宮。遊びの世界・学問の世界がとなりあった北野界隈は、まさに作者の語る「京都」を象徴している。

老松

夏柑糖
著者がいちばんお気に入りだという、老松の「夏柑糖」。夏みかんをまるごと寒天菓子にしたもので、とてもすっきりした味。4月1日から販売を開始し、終了する時期は「その年の夏みかんの穫れ高によって」と、季節感たっぷり。

基本情報

  • 店名
    有職菓子御調進所 老松
    住所
    京都市上京区北野上七軒
    電話番号
    075-463-3050
    URL
    http://oimatu.co.jp/

この記事を書いた人

たま
実家を出て、京都市内で暮らし始めて早2年。「一日一猫」ルールを自分に課し、日々、新たな猫がいそうな場所をうろついています。散歩が好きで、気付けば四時間ほど歩き続けていたことも。