宇治田原町に、若い女性たちの注目を集めているお寺があります。この地で約800年の歴史を持つ正寿院(しょうじゅいん)。2015年に新設された客殿の「ハートの窓」を味わいに、自然に囲まれた宇治茶の郷へ足をのばしてみませんか。
宇治駅からバスで約1時間、日本の原風景が残る山里へ
正寿院へは、JRまたは京阪電車の宇治駅から京阪バスとコミュニティバス(※)を乗り継いで向かいます。マイカーでドライブも楽しめるコースですが、いつもは乗らない郊外行きのバスに乗って、車窓に広がる景色を眺めながら行くのもまた一興です。最寄りのバス停「奥山田」からは徒歩でさらに約10分。茶園や田畑に囲まれた道を歩いていると、山の空気、草木の香り、鳥の声などが快く、「五感で自然を感じる」という、正寿院のホームページに書かれた言葉が実感できます。
(※)コミュニティバスは地元の方々優先のため、満員の時はタクシー利用になります。
本堂でのもてなしに癒される
「ハートの窓」がある客殿へ行く前に、本堂で拝観手続きをします。毎月「8」のつく日には、縁起物の「叶紐(かのうひも)」も授与されるので、その日にあわせてお参りするのもおすすめです。蓮の花びらをかたどった拝観券は、法要でまかれる「散華(さんげ)」を模したもの。参拝の大切な記念になります。本堂で出されるお茶と可愛いお菓子、縁側から眺める地蔵堂、山寺らしい野趣のあるつくばいなど、すべてが目を楽しませ、心を和ませてくれる空間です。夏にはこの本堂の庭を約2000もの風鈴で彩る「風鈴まつり」が開催され、地元では「風鈴のお寺」としても親しまれています。
いにしえから現代へ、つながる歴史にふれる
ご本尊の十一面観世音菩薩立像は宇治田原町の指定文化財で、50年に1度だけ開扉される秘仏です。ご本尊と並ぶ不動明王坐像は日本を代表する鎌倉時代の仏師・快慶の作で、国の重要文化財に指定されています。ご本尊内陣の天井には、江戸時代に描かれた貴重な「種字曼荼羅(しゅじまんだら)」が現存し、寺の歴史を伝えています。見どころの天井画は、もうひとつあります。2017年に完成した花天井画です。こちらは現代日本を代表する画家や書家らによって描かれ、新設の客殿を華やかに彩っています。
現代人の心を解放する「ハートの窓」
客殿の広間へ入ると真正面に、くっきりと庭の風景を切り取るハート型の窓。正式には「猪目窓(いのめまど)」といいます。猪目は日本の伝統文様のひとつで、魔除けや招福の意味から寺社の建築装飾や茶室の窓に使われてきました。茶どころの寺として、茶会を催すこともある客殿にふさわしい意匠です。この窓を通じて外の自然と一体になり、我を忘れ、癒しの時を過ごしてほしいという想いが込められています。
昔から地域の人たちによって大切に守られてきた本堂の仏像や天井画と同様、平成末期に新築されたこの客殿の猪目窓と天井画も、今を生きる人たちと共に新しい歴史を刻んでいくのでしょう。ヨガ体験やオリジナル数珠づくりなどの催しもあり(予約制)、季節を変えてまた訪れたくなる、多様な魅力がある古刹です。
宇治茶の里を満喫するなら、ぜひ立ち寄りたい茶園
バス停から正寿院への道中に、散策とお茶の試飲が楽しめる茶園があります。山の傾斜地に広がる約1ヘクタールの茶畑を実際に歩いて見学し、生産者のご主人から貴重なお話も聞けます。見学は主に週末に行われていますが、季節による変動や、生産の繁忙期には開園されない可能性もあります。開園日程や詳細は「茶農喜左衛門 (さのうきざえもん)」のホームページで確認してください。