俵屋吉富は、創業が宝暦5年(1755年)の老舗和菓子店です。茶菓子がメインの小川店は、西陣地区と御所のちょうど中間あたりに位置します。「茶ろんたわらや」は、この小川店にある全8席の隠れ家的喫茶です。「茶ろんたわらや」の周囲には裏千家今日庵、茶道資料館をはじめ茶道にまつわるお店が軒を連ねます。

心躍る、奥へと続く細い道
「茶ろんたわらや」の小さな入り口は、和菓子を販売する店舗の横にあります。ここをよく通る人でも、その存在に気がつかない場合があるとか。
小さな入り口を入ると、飛び石のある細い道が建物の裏へと続きます。角を曲がるとそこには、ガラス張りの「茶ろん」が現れます。その瞬間は、表の通りから別世界に来たような感覚。ここは、まさに隠れ家です。


遂に「茶ろん」へ入ります。店内は和のしつらえに無理なくモダンなテイストが取り入れられた、シンプルで開放感のある空間です。庭を望むガラス、厨房を隔てる壁は一面の鏡。狭さを感じさせない工夫がなされています。和菓子を販売する店舗の伝統的な和のデザインとは、まったく違った表情の「茶ろん」。表通りの喧噪から離れて静かで、ほっと落ち着くことができます。

本格上生菓子から宇治金時まで多彩なメニュー
メニューは、俵屋の代表作の雲龍、そして、季節の上生菓子、アイスやあんみつなどの甘味、そして、夏の定番葛切りや白玉宇治金時など多彩。上生菓子は、セットで抹茶か煎茶をつけることができます。
今回、紹介するのは、白玉宇治金時と、いかにも夏らしく涼しげな「岩清水」です。
俵屋吉富では、小豆や砂糖といった菓子作りに欠かせない原材料が厳選されているのはもちろん、そのこだわりは、使用される「水」にまで及びます。なんと御所近くの本工場には自社で採掘した井戸があるそうです。
夏限定の白玉宇治金時の「氷」は、その井戸からくみ上げられた天然水を使用。ふんわりとした氷によく馴染んだお抹茶の渋みや砂糖の甘みはひかえめ。金時はあずき本来の味と上品な甘みが堪能できます。
そして、見た目も美しい岩清水。こちらは煎茶と一緒にいただきます。透き通った表面から中の青い餡が覗きます。こちらも見た目さわやかで甘さもひかえめ。ぷるぷるとした食感も楽しいです。どちらのメニューも素材の素朴な味わいと水の美味しさが存分に活かされています。

茶道と出会う
ゆっくりと甘味を堪能したら、茶道具屋さん、茶道総合資料にもぜひ寄ってみましょう。一歩外へでると、ここには古くから茶道に縁の深い土地。周囲には茶道具屋さんが数件あり、飛び込んでみれば、味わい深い茶碗、お茶を立てるときに使う茶筅、ひょうたんのような形をした茶入などが並びます。いずれも一級品。名品が美しく陳列された店内は、さながら美術館のようです。
茶道には興味はあるけれど、ちょっと入りづらいと感じるなら、茶道総合資料館がオススメです。こちらは、専門書もあれば、茶道初心者のための展示、時期によっては体験コーナー、ワークショップも企画されており、誰でも気軽に入れる雰囲気になっています。展示は、茶道具の名品、花入、掛け軸、美術品、茶室など、そして専門書の蔵書は約5万点。入館すれば、お茶とお菓子がいただけるのもうれしいです。
さらに「茶ろんたわらや」から歩いて15分程のところにある俵屋吉富烏丸店には、京菓子資料館もあります。2階の展示室には、「図案集」という和菓子のデザイン帳兼カタログがあり、いま見ても可愛らしく、美しい和菓子のカタチに、惚れ惚れとしてしまいます。
また、美しい正面入り口、アプローチの空間は、平成15年度京都景観まちづくり賞「優秀賞」にも選ばれており、入り口の美しい竹林から坪庭にある「水琴窟」まで見どころがいっぱい。こうした場所で見識を深め、再びお菓子やお茶をいただけば、また味わいもひとしおです。